「誰かの為に生きられるなら、何も怖くない」大神ってそういうゲームだから。
「誰かの為に生きられるなら、何も怖くない」
これは国民的ソング、もとい国歌である”Getwilid”の一節である。
一見して”誰かの為に生きられる”ということと、”何も怖くない”ということの相関関係がわかりにくいが、最新作である「劇場版シティハンター 新宿プライベートアイズ」に答えがあった。
香が敵に言う「本当に強いのは自分の為ではなく他人に自分の力を使える人だ」という旨の台詞があるのだが、これこそまさに「他人の為に力を使って生きられる強さがあるから何も怖くない」ということなのだと気付かされた。
男で冴羽 獠が嫌いなやつはいない。いるとしたらそいつはきっと海坊主だ。
誰しもが冴羽 獠に憧れこそするが、実際に誰かの為に生きられている、ということはなかなか出来ない。※だからこそ冴羽獠のかっこよさなんだけど。
誰かの為に生きる事で自分が強くなる、そんなこと実際にあるんだろうか。
人の役に立つ、という定量的指標が無い概念を糧に強くなる、という事は体験しづらく、再現性も低い為おろそかになってしまうが、その大切な事を学べるゲームがある。
だいぶ前置きが長くなったが、2006年にカプコンから発売された「大神」というゲームを紹介したい。
大神とは
俺はゲーム友達と飲みに行くと1/2の確率で大神を語ってしまうくらい大神が好きなのだが、好きな理由がシステムや世界観もさることながら、大神が大切にしている概念がとても好きなためだ。
大神は神様の白くて大きい犬(アマテラス)が古代日本を舞台に、旅をしながら土地土地に蔓延る厄災や邪、呪いを説いてその土地を生き返らしていく、というゲームだ。
大まかにまとめると、
①オロチと呼ばれる厄災により土地が呪われる
②その地に立寄りキーマンと会って事情を把握する
③土地を復活させる
④厄災のもとを倒し安寧をもたらす
を全国で繰り返していくことで大元の悪に迫っていく、という構成になっている。
これは旅先で困っている人を助けて悪をしょっぴく水戸黄門の様な
紋切り型の勧善懲悪ストーリーで、老若男女が理解して没入しやすい構成だ。
これだけ聞くとこれまであった様なゲームと思われがちだが、大神の特殊性はその”強くなり方”にこそある。
大神はこれまでのRPGの様に、ただ敵を倒す事によってだけでは強くなれない。
アマテラスは「人を幸せにすること」で神様として力を蓄え悪に立ち向かえるのだ。
幸せにする、とは
アマテラスは自然の動物に餌付けをしたり、
市井にいる困っている人の課題を解決したり、土地に憑いた呪いを祓うことで”幸玉”というポイントを手に入れることができる。
この幸玉は神様への信仰心や感謝が形になったもので、「誰かが幸せになったことの証」であり、報酬として手に入れることでアマテラスのパラメータを強化できる仕組みになっている。
つまり「アマテラスの強さ」はそのまま「プレイヤーがゲームの中で積んだ徳」であり、「どれだけ誰かの為に生きられたか」というものさしになっている。
この過程で「綺麗になった自然を喜ぶ動物達」や「幸せになって喜ぶ村人たち」、「元気を取り戻した美しい自然の風景」といった、プレイヤーの成功体験を肯定する気持ち良さがUXに組み込まれていることが、「ただ強くなる為」という自己都合な動機から、「この世界にもっと幸せを創りたい」という他己的な動機に昇華させるのあり、これが従来のRPGにあった様な「ただ敵を倒せば強くなる」とは別のレイヤーに存在する制作者側の意図でもあったんではないかと思う。
大神を通じて得られる効能
また、大神で重要なファクターである謎解き要素。
それはまるでゼルダシリーズの様なスキルを使ったフィールドアクションで行くべき道を切り開くのだが、ヒントの出し方がかなり直接的で、全体的な謎解き難易度を下げている。
だが、そのヒントだけだと謎を溶ききれない、という絶妙なバランスを保っており、
その最後の謎ときに必要なプレイヤー自身の気づきこそが「プレイヤー自身が自分の手柄で解決した」という成功体験を積む事になり、これによる自己肯定感を高められるという側面を持っている。たぶん。
制作者の思い
デビルメイクライ、ビューティフル・ジョー、ベヨネッタ等、世界観もシステムも個性的で独自性の強い作品を数多く手がけている大神のディレクター、神谷英樹さんは、
「元々心が癒せるゲームが作れないか」という構想があったようだ。
2003年頃に制作されたコンセプトムービーでは既に自然を駆け回り、緑を再生させていくでかい犬という映像が既に存在しており、根幹にあったことは確かだろう。
このコンセプトをベースに、神様が現世へ施しを与えるのに「筆でなぞると術が発動する」というゲーム的なUXが追加されていったようだ。
実際にアマテラスが呪われた土地の邪を祓い、自然を生き返らせた際に
平野一面が豊かな緑や花で覆われる「大神降ろし」という場面の映像を見て
「人の心を癒せるゲームだ」とプロデューサーの稲葉さんは思ったらしい。
結果的に癒す、というミッションは達成しつつもその先にある、
ゲームの中で人を幸せに、自然を豊かにすることで強くなるという体験をする
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リアルでも他人への施しに対して抵抗が無くなる
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誰かの為に生きられる
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何も怖くない強さを得られる
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傷ついた夢を取り戻す
という、ゲーム体験を提供して、便利になった世の中で気付きにくくなった、実行しにくくなった普遍的な幸せの在処を気付かせる、という制作側の願いを達成させているんではないかと思う。
っていう、クリアしたら冴羽獠になれてるかもしれない大神の紹介。
またやりたくなってきた。switch版買おうかな。
磯野〜!大神やろうぜ〜!!