よいこの味方、キカイダー01万歳。
サブスク型のビデオストリーミングサービスを契約していると、
「いつでも見れるからこそいつまでも見ない」というジレンマが終わりません。
そんな中、毎週決まった曜日に決まった数だけコンテンツを配給され、
次週になったら新しい話が配信されるから見られる期間が限られる、という
テレビ放映視聴に近い前時代的なUXが得られるのが
YouTubeの東映特撮YouTube officialチャンネル。
「ああ、今週分見ないともう見られなくなっちゃう」というおいかけがあるからこそ、
週に2話分、およそ45分程度を捻出できます。
さて、この東映特撮chでは、仮面ライダーゼロワンが地上波で放映され始めた2019年秋から、狙い澄ませたかの様に"キカイダー01(ゼロワン)"が配信されています。
名前が「ゼロワン」同士ということはありますが、それ以上にアンドロイドのシンギュラリティやロボットと共存する社会の在り方といった、現代にも通ずる未来予想図を思わせる示唆に富んだ発見が数多くありました。
私は元々キカイダー01が大好きで、DVDで全話見ていたんですけど、
改めて週2で01を見続けるという行為を通じて、気付いたらキカイダー01という作品が
何にも代え難い、かけがえの無い存在として自分の中で大きな存在になっていました。
そんなキカイダー01も今週ついに最終回。
毎週火曜に珍味の様に愉しんでいたコンテンツが終わってしまう事に一抹の寂しさを覚えています。
そんな寂しさをひとときでも忘れる為にいかにキカイダー01がコンテンツとして優れているかやビジネスマンの教材として優秀なケーススタディたるかを駄文で綴りました。
一人でも多くキカイダー01の視聴者が増えたらこれほど幸せなことはありません。
ポイント1.突っ込み0!全員ボケっ通しの30分
キカイダー01のいいところは、「誰もつっこみがいない」っていうことなんですね。
登場人物みんな一生懸命。ただ、一生懸命になるベクトルがおかしいだけで。
登場人物みんな、一人として例外無く”自分の行い”を「ボケ」として認識してないんですよ。
みな等しく、敵も味方もそれぞれ自分が正しいと思う言葉選びをし、行動している。
それに対して野暮な突っ込みを入れるやつが誰もでてこないんですよ。
例えば人間をさらって、ロボットの工場を作らせる、みたいな作戦があるんですね。
ただ、その人間さらってくる役割はロボットがやってるんですよ。
いやいや、ロボットが工場作ればいいじゃん!飯も休憩もいらないんだから!
って思うじゃないですか。
でもそれを言う無粋なやつは登場人物にはいないんです。
「なんて酷いことを!ゆるさん!」っていう人たちばかりなんです。
別のケースでいうと、”念力”を武器とする敵幹部が登場した回。
その念力に対して「念力遮断装置」を学会で発表するっていう学者がでてきて、それを敵組織が急襲するっていう話があるんです。
念力を遮断する装置ってなんだよ!
とか、
念力を肯定した上で成り立ってる学会ってなんだよ!
とか、
協賛企業は何に共鳴したんだよ!
とか
野暮だから我々は突っ込んじゃうじゃないですか。
でもそんな突っ込みを劇中でするやつは一人もいないんですね。
だからこそ、全力でボケてくれる番組そのものに視聴者がツッコミを入れる、っていうUXが成立するんですよね。
これって、既存のコンテンツでもめちゃくちゃ希有で、一人でも劇中につっこみ担当がいると成りたたない絶妙なバランスの構造なんですよね。
「故意にボケてきてるあざとさ」が一切ないからこそ、視聴者は本気で突っ込めるんだと思います。
「世界征服という目標に対して手段が目的化してない?」とか5秒で気付くことがめっちゃありそうな作戦がいっぱい出てきて、船井総研のコンサルとか入ったら秒でロジックツリーがブラストエンドされそうなトピックが盛りだくさんで毎週目が離せないのです。
ポイント2.キカイダー01の主役は01にあらず
キカイダー01の功績は巨大組織シャドウを世に生んだ事にほかならないんですよ。
仮面ライダーでいうところの「ショッカー」、「デストロン」みたいな悪の組織。
キカイダー01には「巨大犯罪組織シャドウ」っていうのが出てくるんですね。
簡単に構成を言うと、最高経営責任者に「ビッグシャドウ」、執行役員の「ザダム」、事業部長「ギルハカイダー」、でそのしたにそれぞれその回の怪人アンドロイドがぶらさがる構成になってます。
元々ギルハカイダーっていうのは、前作の「人造人間キカイダー」に出てきた悪のボスの「ギル」っていう奴がいまして、こいつの脳を移植したアンドロイドなんですよ。
なんで、ひらったく言うと、スモールスタートアップ企業やってた経営者が会社手放して、もっと資本力ある企業の中間層に雇われた、みたいな構造になってるんですね。
だから、時にそのプライドが邪魔をして作戦自体が頓挫したりとか、妙に人間臭い所が魅力で。
なんせ現場主義なんで、すぐマネージメントほったらかしにして自分が前線出て行っちゃうんで、部下が育たないタイプのプレイングマネージャーみたいなやつなんですよ。
なのでビジネス観点でキカイダー01を見てると、圧倒的なカリスマでビジョン経営をするビッグシャドウ、それを具体化して実行するザダム、現場のお目付役だけど邪魔しちゃうハカイダー、引いたマイルストーンに則って実行するアンドロイド達っていう、役割分担が明確な組織構成のロールモデルとして非常に身につまされることが多いです。
一方でシャドウが郵便局をのっとる、っていう作戦を実行するんですけど、劇中では
その作戦を立案するプレゼンター、了承して実行を促すファウンダーがいまして、
俯瞰するとこの作戦って定量的な行動指標まったくないんですよ。
「人々の信頼を失わせる」みたいなざっくりしたKGIだけが話されていて、
じゃあどの指標が目的達成の進捗が正しく推移してるか、とかって全く語られないんですね。
でもそれで全然よくて、各レイヤーの役職者がビジョン実現に向けてひたすらタスクをこなして行く、っていうお手本みたいな運営がなされているのもケーススタディとしてとても面白いんです。
そんな悪者の悲喜こもごもが毎週の視聴者の楽しみになるなんて、キカイダー01くらいだと思います。ほんとに。
ポイント3.開発力と実行力がやばい
巨大犯罪組織シャドウってとにかく無尽蔵にロボット作れる資金と、とりあえずでやってみる行動力が本当にすごいです。Googleよりすごい。
っていうか技術力めっちゃ高いから、開発技術で特許取得したら時価総額だけで世界征服できちゃうんじゃねえのっていうレベルなんですよ。
超ざっくり列挙するだけでも
・人間にそっくり化けられるロボット
・人間の血液を使って稼働できるロボット
・海水を燃料にして稼働できるロボット
・爆発するインク
・月面基地
・タイムトンネル
など。
ちなみにタイムトンネルというのは、過去の時代にタイムスリップできるツール。
シャドウはこれを開発して江戸にとび、平賀源内を連れて帰ってきてエンジニアとして迎え入れる計画だったようです。
タイムトンネル開発以上の開発力って世の中に無いと思うんだ。
まあタイムトンネルは別として、もしかしたらテスラが何十年か後に具現化しそう、とか思うと今見ても面白いです。まあ実現しないだろうけど。
上手くやれば、最もシェア持ってる企業の二次請けやって、そこで開発してるデバイスに洗脳装置とか組み込んでじわじわとサスティナブルに世界を掌握できそうなポテンシャルがあるだけに、シャドウの開発力はもったいない限りです。
おのれゼロワン!貴様さえいなければ!!
おわりに
キカイダー01の魅力を語るつもりがほぼシャドウの話になってしまいました。
バカだけど良い奴な殺し屋アンドロイド「ワルダー」、気苦労の絶えない悲劇のマドンナ「ビジンダー」、女幽霊だけどロボットと言い張る「幽霊ロボット」など、語り尽くせない愛すべきキャラクター達もまたキカイダー01が今も記憶に残る名作たる要因。
どっかのタイミングでまた別のまとめを用意したいと思っています。
影が深く、広ければこそ光は輝くものです。
キカイダー01の魅力はシャドウがあってこそ、ということが少しでも伝わり、そしてキカイダー01を生活のひとかけらとして選択してくれる人が一人でも増えたとしたら、これほど嬉しい事はありません。